日々の道具 ぐい呑み



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日々の道具
過去に紹介した道具達

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大前悟/越前ぐい呑み大前悟/越前ぐい呑み

越前ぐい呑(時代 現代)

信楽で独立して1、2年たった頃仕事場近くの古道具屋に
暇をみつけて入り浸っていた。
そこのおっちゃんは仕入れ兼旅行に金のない私を
しばしば運転手として誘ってくれました。
ある朝4時くらいに信楽を出発し、
ハイエースをぶっとばしてあっという間に飛騨高山に到着。
道具屋仲間の方を訪ね、仕入れを順調にすませ一段落し、
観光の方もしっかりし帰ると思っていたが、
寄り道をしようとなぜか福井に向いて山越えをしていた。
おっちゃんのいつもの行動で慣れていたとはいえ、
随分な遠回りでかなりしんどかった。
福井に入るととっくに日も暮れ、
ハイエースで海沿いを走らせていると
多くの烏賊釣り漁船が漁火をつけ海に漂っている。
こんな風景は信楽に住んでいた私たちには
想像を超えた幻想で眠りに誘われそうになったがこらえた。
結局福井で一泊し海の幸も堪能でき感謝である。
福井ではおっちゃんの目にかなう道具は見つからず、
ぶらっと越前の陶芸村に寄ってみたところギャラリーがあった。
奥のほうに横に転がし焼かれた大壷がありました。
古越前の気配を感じる凄みがあり、
その迫力に魅せられていると
60才を超えた方が焼かれたものだと説明を受けた。
まだ20代だった私には驚きであった。
60を超え、作陶に情熱を持ち続け
こんな壷を焼ける人がいるのは嬉しかった。
陶芸家の人生のまとめに入ってしまったような作品をよく目にするが
この壷はそんなことは無関心って感じである。
さすがにその壷を買う金がなかったので(ローンも不可で)、
ぐい呑を選りすぐり
気持ちを抑えてゲット!!
このぐい呑は私のコレクションの中でも登場回数が多い。
新しい酒を開ける時は必ず使ってしまう。
無骨な成形だが私の手によくなじみ、酒の受けとめも良い。
何より見込みの自然釉の配置が絶妙で、
酒を注ぐと乳濁した釉のせいか
透明な酒でもすこし濁って見える。
酒への期待感が高まる。
お見事というしかない。
私もいつかこんなぐい呑が作れないかな~っていうかあの壷が…。
漁火が…。
本当はあの壷が欲しくてたまらなかった。
無念である。
あの壷を思うと
漁火の美しさの思い出の方に差し替えようとしてしまうのである。
もう自分で焼くしかないか…。
まだまだ無理か…。
漁火が…。